インバウンドショックで再び逆風の伝統工芸品
事業所数の減少傾向が続く伝統工芸品市場
日本各地にその土地の風土、歴史を踏まえた工芸品が伝わってきていますが、現在、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(1974年法律第57号)に基づく経済産業大臣の指定を受けている工芸品は237品目に上ります(2022年3月18日時点)。 こうした伝統工芸品には、織物、染色品、陶磁器、漆器、木工品、竹工品、金工品、仏壇、仏具、和紙、文具(筆、墨、硯、そろばん)、石工品、人形、郷土玩具、扇子、団扇、和傘、提灯、和楽器、神祇調度、慶弔用品、工芸用具、工芸材料などが挙げられますが、1950年代の高度経済成長以降、原材料の確保難や後継者不足などにより、産業維持が困難になっているものも少なくありません。
経済産業省が実施している直近の2020年「工業統計調査」(2019年実績)における品目別統計表より伝統工芸品企業が多く含まれる市場について見ていくと、ほとんどの品目で出荷金額が減少し、事業所数も減少傾向にあることが分かります。(図1~図7)「七宝製品」はすでに事業所数は1ケタまで落ち込んでおり、技術の伝承がますます困難になっていることがうかがえます。同様に「陶磁器絵付品」も事業者数は15年と比較すると10社以上が減少しており、後継者育成に向けた土壌が細ってきています。これらの数字は2019年実績であり、国内においてはインバウンドの市場が拡大し、その流れを受けて日本の伝統工芸品等も海外の方々に知られ、輸出への動きが拡大したタイミングに相当します。言わば追い風を受けていたタイミングの統計ですので、コロナ禍でインバウンドが停滞し、激しく失速した現状はさらに厳しい状況にあることが推察されます。
図1~7
※グラフは経済産業省大臣官房調査統計グループ 2020年 工業統計表「品目別統計表」をもとに当社が独自に作成
今後はインバウンド拡大に向けた動きが活発化していくとみられますが、かつてのように年間3,000万人を超えるインバウンド客を集めるまでには少し時間がかかりそうです。そんな中、国内においての需要拡大は伝統工芸品市場の維持に極めて重要なポイントになります。今回は国内の主要な伝統工芸品の認知・購入意向について、全国の20~60代の男女8,739人の方にアンケートを実施した結果について見ていきたいと思います。
70%を超える認知は41品目中6品目にとどまる
図8~10で国内各地にある伝統工芸品の認知についてまとめてみました。今回の調査対象41品目のうち70%を超える認知となっているものは「南部鉄器(70.7%)」、「江戸切子(71.0%)」、「輪島塗(74.9%)」、「信楽焼(71.2%)」、「西陣織(72.9%)」、「伊万里・有田焼(78.4%)」の6品目でした。認知が30%を切る品目は15品目あり、認知獲得に課題を抱えている伝統工芸品が多く存在している状況であると言えます。
図8~10
※都道府県順に表示
次いでこれら41品目の購入経験についてまとめたものが図11~13です。
図11~13
※都道府県順に表示
伝統工芸品は価格がやや高いものが多く地域で購入されることが多いため、さほど多くの購入機会に恵まれないものですが、今回のアンケート調査の結果をみると、最も購入経験の割合が高かったのは「伊万里・有田焼」の15.7%となり、購入経験が20%を超える品目は一つもありませんでした。2ケタを超えた品目は「南部鉄器」、「江戸切子」、「箱根寄木細工」、「輪島塗」、「信楽焼」、「萩焼」、「伊万里・有田焼」の7品目で焼き物が多くなっています。日本の伝統工芸品は、美しさはもちろん、その実用性の高さが評価されますが、購入経験の割合の高いものをみると、実用性が購入を引き上げる上ではやはり重要になっていることがうかがえる結果となりました。
今回の調査からみると、日本の伝統工芸品は国内においてもまだ2~3割の認知にとどまっているものが多く、まずは地域外の方々に知っていただくということが活性化の入り口となりそうです。伝統工芸品の職人の世界では、近年、他地域からその美しさに魅了され、弟子入り志願するような事例が多く聞かれます。伝統工芸品が抱える大きな課題である後継者不在という問題も、品目の認知拡大が解決の糸口になることは言うまでもありません。ネット社会の進化により個の情報発信はさまざまな市場で変革をもたらしています。伝統工芸品はその歴史や伝統、高い技術、原料に対するこだわりなど、さまざまな要素で情報発信することが可能な産業です。個の情報発信がますます重要性を増す環境下においては、大量生産された商品・製品よりも伝統工芸品は時代に即しているとも言えます。
この数年はインバウンド対応含めて、伝統工芸品の現代化、デザインの見直しなどが活発に進められてきましたが、製品や販売スタイルの見直しとともに情報発信の仕方など、ソフト面の対応変化も産業活性化に必要な視点と言えそうです。
調査名:都道府県に関する調査(2022年3月)
調査地域 :全国
調査対象者:男女20~69歳のT会員
有効回答数:8,739サンプル
調査期間 :2022年3月16日(水)~3月24日(木)
調査機関 :CCCマーケティング株式会社
※日本の性・年代別人口構成比でウエイトバックしたスコアを利用しています
【お問合せ先】
CCCマーケティング総合研究所
担当:杉浦・斎藤
[email protected]